トルルル・・・
「もしもしおじいちゃん!?おれおれ!?おれだよ!?」
「おれって!?たかしか!?」
「そう、たかし!!」
「どうした!?たかし!?」
「助けて!!おじいちゃん!!会社の大事なお金を落としたんだ」
「ほほぉ、そりゃ大変じゃな」
「いますぐお金がいるんだよ。おじいちゃん!!」
「いくらじゃ!?」
「200万円」
「何処へ持っていけばいい!?」
「午後の2時に、北千住駅前の郵便局の前にいるよ」
「わかった!!わかった!!2時じゃな!?待っとけよ。」
「じいちゃん、念のためケータイの電話番号教えて」
「よしよし、090の×××××××××××」
「わかった!!着いたら必ず連絡するね」
「よっしゃ、よっしゃ、気を落とすなよ。待っとれ!!」
プチっ・・・。
警察庁がまとめた2019年の特殊詐欺の認知件数は、前年比5.6%(993件)減の1万6851件、被害額は同17.5%(67億円)減の315億8000万円だった。被害額は減っているものの、8年連続の300億円越え。親族を装ってだます「おれおれ詐欺」は、80歳前後に被害が多発している。
要は、脳の働きが悪くなったところに、おれおれ様は、突然やってくる。人の良い顔をして近づいてくる。こうなりゃ、脳を鍛えるしかない。脳みそを若いママに維持するしかない。この小説は、詐欺ではない。ゆめゆめ疑うことなかれ・・・。
非日常を体験する。
同じ日々を繰り返すのは、良くない。脳みそに刺激を与えなきゃいけない。日常の連続は、認知症へ真っしぐらだ。非日常を体験しましょう。ドキドキしましょう。犯罪の真似事をするのも、そのひとつの方法だ。捕まらないウソをついてみるのも一興だ。
成長ホルモンを分泌させる。
脳下垂体から分泌されるホルモン系の中で、脳の活動を最も活性化し、健康感をもたらす作用をもつのが『成長ホルモン』である。高齢者になったら、これは„若返りホルモン〝。このホルモンを円滑に分泌させるために重要となるのが、運動と睡眠のリズムだ。
1日3000個の想念を入れ替える。
人間の脳は1日6万個の想念を思い浮かべ、そのうち95%がきのうと同じことを考えているそうだ・・・ということは、20日で6万個の想念を入れ替えることができるということ。1日3000個の想念の入れ替え!!「裏返す」「くっつける」「突き抜ける」。この3つがボケない秘訣だ。
たかしのおじいちゃんは、ウキウキと北千住駅へと向かった。鼻歌交じりだ。歌っているのは、あいみょんの「マリーゴールド♫」。不思議なくらい絶望は見えない。リズミカルな足元だ。
トルルル・・・午後の2時ちょうどにケータイが鳴った。
「もしもしおじいちゃん!?おれおれ!?おれだよ!?」
「はぁはぁ・・・わしわし・・・」
「じいちゃん、どうしたの!?」
「走ってきたら心臓がな・・・・あっ」
「じいちゃん、大丈夫!?いま何処にいるの!?」
「わし・・・わしは・・・もう郵便局の前じゃ」
「じゃあ、直ぐに行くからね」
偽物のたかしは、郵便局前に、飛んでやってきた。おれおれ詐欺の受け子役は、ハタチくらいの気の弱そうな青年だった。まわりを見渡してじいちゃんを探している。そのとき、突然、うしろから両手で目隠しをされた・・・
「だぁーれだ!?」
「わっ!!この野郎!!誰だよ!?」
「わしわし。おれおれからの〜わしわしじゃよ。笑」
受け子の青年の視界が明るくなった。目の前には、警官がふたりと「わしわしのわし」が立っていた。あっけなく御用だ。
若い警官は、哲夫さん(齢80歳)に、敬礼をした。
「これで3人目のお手柄ですよ。哲夫さん。」
「若さの秘訣は、わしわし詐欺じゃ」
トルルル・・・
「もしもしおじいちゃん!?おれおれ!?おれだよ!?」
「わしは、よーわからんから、婆さんにかわるわ。はいはい。なんですか?わしも、よーわからんから、娘に変わるわ。はい。娘です。はい。わしも、よくわかんないので、旦那に変わりますね・・・・」
「もしもしもしもし・・・・!?」
「劇団わしわしでしたぁ!!!笑」
ブチっ・・・。
こうして哲夫さんの夜は更ける。
今夜もグッスリ。
トルルル・・・
「もしもし!?わしわし!!」
「哲夫じいちゃん!?なんよ!?こんな朝早くから・・・」
「死んだばぁさんが夢に出てきよったのよ!?」
「また!?・・・それで!?」
「いまは、生まれ変わってな!?東京五輪の近代五種の女子選手になってるって!?」
「東京五輪の!?近代五種!?」
「日本の競技人口はたったの33人だったからって!?」
プチっ・・・。
若返りホルモン漬けの哲夫の朝。テレビからは、東京五輪開催予定まであと150日を切ったニュースが流れている。(おわり)