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超感覚的!体内ドラマ [第4回] 腸よ、ハナよ。

「先生・・・蒟蒻って、どうしてあんなに臭いの!?」「蜜蜂の受粉はね、競争率が激しいからね、蒟蒻はウンコの臭いを出して蝿に受粉してもらう道を選んだのよ」

「じゃあ先生、蝿じゃなくて、蝶や蜜蜂に集まってもらいたかったら、綺麗な花になりなさいってこと!?」

「そうね、花があんなに綺麗で甘い香りがするのは、何もしなくても受粉ができるように競っているのね。要は、働きたくないから花は綺麗なのよ。」

男子高校生の憧れの的である生物の女教師から発せられる言葉に淀みはない。高校二年生のハナは、この女教師をお手本に生きようとしている。廊下で捕まえては、綺麗になるための個人授業がはじまる。甘い香りがする花に集まる若い蝶である。

「先生は、綺麗になるためにどんな努力をしているの!?」

「腸よ、ハナよ。これあげるね。」

手渡されたのは、女教師の財布の中でボロボロになった小さな紙切れだった。

「腸なの!?」

「悔しかったら蝶の集まるハナにおなりなさい。」

むらぎもの

心にとひて

はぢざらば

よの人言は

いかにありとも

むらぎも(群肝)にきいてみて、少しも恥ずるところがなければ、世間の人は何を言おうと、動揺することはありませんという意味。明治天皇の皇后さまが詠まれた歌だ。

「群肝」とは、五臓六腑のこと。昔の人たちは、アタマより、内臓にココロが宿っていると考えていたのだ。

五臓六腑の代表が「腸」だ。その機能は、格別凄い。「腸管神経系」と呼ばれる独自の神経系を持ち、脳からの指令がなくても、自活できる唯一の臓器だそうだ。さらに、腸内に存在している細菌は、体の中にあるドーパミンの50%、セロトニンに至っては90%を生成していると言われている。

ココロの在り処は、きっと、腸だ。

こうしてハナの「腸活」がはじまった。いや、華麗な「蝶活」と言った方が相応しい。

放課後は、まっすぐ家に帰る。ジャージに着替えて近所をウォーキング。下半身に少し力を入れて、お尻の穴をキュッと閉めて、5㎞。

夕食は、早めにとる。野菜中心のメニューをママに頼み込んで作ってもらう。

軽い夕食を済ませた後は、ココロを落ち着かせてペットのニャンコと遊ぶ。0時までには、必ず就寝。テスト前でも関係ない。綺麗な蝶になるための修行だ。テストの点数なんて気にしない。

朝は、ママに起こされなくても定時に起きる。歯を磨く前に、コップいっぱいの水をゴクリと飲み干す。

朝食は、夕食よりもしっかり食べる。ウンコをしたくなくたって、毎日同じ時間に、トイレに入る。人に見せるものじゃない。毎日やらないといけない。しないとどんどん苦しくなる。生物の先生の教えを守る。

「ハナ!!なんか最近、綺麗になったんじゃない!?」

「そうでしょう!!先生!!

もう蝿は、寄ってこないわよ!!」

「蝶のように舞い。

いつもの時間に寝て。

いつもの時間にウンコして。

蝶よ、ハナよ。笑」

脳と腸は、身体中にはりめぐらされたネットワークを通して常に情報交換をしていると言われている。

「腹黒い」 「腹が立つ」 「腹を探る」 「腹わたが煮えくりかえる」。むらぎも(群肝)の心が汚れていたらそれまでだ。美腸が、女の子を蝶にする。

斯くして、ハナの通う高校の生物部は、花形となっていった。すごい美人が揃っているとのウワサが県内に轟いた。部活の顧問は、あの女教師。花の蜜に集まる蜜蜂のように、イケメン男子もわんさか入部した。

生物部の活動のスタートは、いつも部長のハナの掛け声ではじまる。

「整列!!大きな声で唱和!!」

(部員全員で一糸乱れぬ唱和)

努力とウンコの共通点

ひとつ、人に強制するようなものじゃない。

ひとつ、人に見せるものじゃない。

ひとつ、毎日やらないといけない。

ひとつ、しないとどんどん苦しくなる。

あの腸活がはじまった運命の日。ピンクのブランドの財布から取り出された小さな紙切れに書いてあった言葉が、生物部の行動指針となっていた。

(おわり)