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超感覚的!体内ドラマ [第2回] 我が家の免疫力

ワタシ「叔父さんのところに到着するのは3時ころな!?」

福岡の真ん中あたりから大牟田に向かう幹線道路をプリウスで飛ばしている。助手席には、カミさん。キミ子には冗談が通じない。カミさんと会話が続かない。

キミ子「3時ころね!?」

ワタシ「3時ころな。」

キミ子「わかってるよ!!3時ころね!?」

ワタシ「3時ころな。」

キミ子「コロナ、コロナ、って・・・だから何っ!?」

ワタシ「・・・・・」

次女が東京へ行った日の夜。ワタシは、キミ子に『互いにお母さん、お父さんと呼び合うのはヤメて、名前で呼び合おう!!』と提案した。速攻で却下された。一生に一度くらいのワタシの漢気は『だから何っ!?』と一蹴された。あの日から『だから何っ!?』恐怖症である。

片道二車線の国道は、外出自粛だというのに、そこそこに混んでいる。30m先に、ファミリーレストランの駐車場から、国道に出ようとする白いアウディが一台。フロントを道路に無神経に突っ込んでいる。その控えめじゃない態度に、クラクションをひとつ。通り過ぎる時に、フロントガラス越しに視線が合った。

ワタシ「いまの運転手、怒ってたな!?」

キミ子「何が!?」

結婚して30年。わかったことは、キミ子とは、同じものを同じように見ていないという事実。愕然とする。

プッププププッーーーーーーー!!

突然、怒っているようなクラクション。バックミラーを覗くと、さっきのアウディだ。パッシングも酷い。左車線を走っている。右車線に入って追い越せばいいのに。所謂、あおり運転ってやつである。

ワタシ「・・・あおられている・・・」

キミ子「何!?」

ワタシ「だから、あおられてるって・・・」

キミ子「だから何!?」

キキッーーーーーーー!!

追い越し車線に入ったアウディが幅寄せをしてきたかと思ったら、左にハンドルを切って急停止。大声を張り上げながら男が降りてきた。

殺すぞっ!!

キミ子「街のウイルスね!?」

ワタシ「えっ!?」

キミ子「感染しちゃダメよ」

ワタシ「えっ!?」

新型コロナウイルスは強い曝露力で「数打ちゃ当たる」戦略に出る。「曝露」とは人の体内に入り込むこと。体内への侵入に成功したウイルスはさらに身体の奥深くに進み、人の上気道部の細胞の表面にあるACE2受容体との結合を目指す。これが「感染」だ。

キミ子「窓開けちゃダメよ」

ワタシ「ハイっ」

汚い言葉を喚き散らしながら、その男は、プリウスのまわりをウロウロしている。窓をたたく。車の中を覗く。左車線に無造作に止まっている二台の車を迷惑そうに眺めながら、後続の車が追い越していく。キミ子のスマホだけが冷静に仕事をしている。

キミ子「もう、窓開けていいわよ」

ワタシ「えっ!? 開けていいの!?」

おとこ「てめぇら、降りて・・・」

キミ子「あおり運転は、5年以下の懲役または100万円以下の罰金。ここに証拠があるし、車のナンバーも写っているから。このまま警察に届けておきますね」

おとこ「そんなこと関係ねぇよ」

キミ子「関係あるでしょ」

おとこ「何だよ!?」

キミ子「だから何っ!?」

おとこ「・・・・」

キミ子「もう行きましょ」

左のサイドミラーには、所在無げにたたずむ男が映る。その姿が、どんどん小さくなっていく。

集団免疫とは、ある感染症に対して多くの人が免疫を持っていると、免疫を持たない人に感染が及ばなくなるという考えのこと。新型コロナウイルスの流行を終息させるために、もし人口の60〜70%の人にコロナウイルスの免疫力があれば、1人のひとから1人しか感染者を出すことができないため、やがて流行が終息していくことになる。

キミ子「あんな馬鹿なあおり野郎はね、全員が同じ対処が出来るようになれば、この世から居なくなるのよ」

ワタシ「ハイ・・・」

他人に殺される人は、年間で300人ほどらしい。

自分で自分を殺す人は、年間で2.4万人もいる。

『他人より自分は、80倍も危険だ』

『新型コロナウイルスより人間は、何万倍も危険だ』

そんな事実を忘れてしまって当の人間は、アタフタする。「人の生」には、そういうプログラムがされているのだろう。決して賢い選択ができないのも人間なのかな!?。平気で生きることがいちばん難しい。

人間がいちばん怖いって知ることがいちばんの免疫だ。

ワタシ「おまえって凄いな!?」

キミ子「だから何っ!?」

我が家の免疫力の源は、カミさんである。しばらくどんなやっかいにも感染しない気がする。

(おわり)