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超感覚的!体内ドラマ [第1回] しんぞうさんの恋

「余命半年になったら抱かせてくれ」

しんぞうさんの口説き文句である。お迎えが来るその時まで、ずっとドキドキが続く〈循環式の恋〉を心がけている。

「私は、喜寿だが。君は、真珠かな」

しんぞうさんは、ハートが強い。気に入った女性は、手当たり次第にナンパする。恋の火を付けては、自ら消して、次へ行く。まるで〈マッチポンプ〉である。

「墓場に近き、老いらくの、恋は怖るる何ものもなし」

しんぞうさんの恋は、五十二度目である。最愛の妻を亡くしたのが六十三歳。それから五十一度の恋をしている。一年間に、3・64回。一回の恋の平均寿命は、3・3ヶ月。〈いつもペースを乱さない〉。

「私、こんなことになるとは思っていませんでした」
「ワシは、最初から、こうなるのは、わかっとったよ」

しんぞうさんは、現役である。さすがに若い時みたいにはいかないが。色恋に走っていると揶揄されようと。〈筋肉質の身体は、休むことを知らない〉。

妻の静子は、同郷の同級生。初恋のお相手。生まれた時からのしんぞうさんのパートナー。

〈ずっと繫がっていた〉。

「〈静子の持ち込む難題をキレイにする〉ことだけがワシの生き甲斐だよ」
「しんぞうさんの働きには頭が下がります。ありがとう」
「おまえがいるだけでいつもドキドキ、ワクワクしているよ」
「みんながあなたのおかげで役割を果たせているのだから」

バクバクしないだけの勇気と度胸を。
ズキズキしない健康な身体を。
クラクラしない穏やかな家庭を。
人生の長い階段を一緒にのぼって来た。

「私に選択肢なんかなかった。しんぞうさんだけだった」

静子は、最期まで、しんぞうさんへの愛を語った。

「私がダメになっても、しんぞうさんは、みんなのために生きてね。ペースを守って、みんなのために恋をして。ずっと、ドキドキ、ワクワクしていてね。あなたが〈最後の砦〉なんだから」

あの日から十四年の月日が経った。静子の遺言を守っている。もう五十二度目の恋だ。数えるのも面倒臭くなってきた。

しんぞうさんは、〈年に三度か四度、病院へ行く〉。静子が亡くなってからの定期診断にも慣れて来た。

「おかわりありませんか」
「先生、最近、ちょっと疲れて来たよ」
「しんぞうさんらしくない。症状は、なんかあります?」
「ひと夏だけの、ホントの恋をしたいなぁと思ってな」
「いまのペース乱しちゃダメですよ。しんぞうさん」
「そうは言ってもだよ・・・(遠い目をして窓の外を見る)」

そもそも、しんぞうさんは、正しい夏を過ごしたことがない。初恋は、静子。童貞を失ったのも静子。結婚を決めたのは、社会人3年目。偉そうにしているけど「恋」なんてあまり経験していないわけだ。静子の遺言を守ってドキドキ・ワクワクしていようと頑張っているだけのこと。定期的に恋をしようと努力はしているが、ホントに「恋が終わる」経験は、静子以外にない。しがみつくような恋をしていない。女の性格のなんたるかを知っているわけでもない。当然、離婚の危機もなかった。女性とは、どういうものか。その真髄を、未だに知らずなのである。循環式恋愛の欠点だ。

『男はよ、女に騙されるために生きてんだ。』と宣ったのは、ルパン三世である。女性の「恋が終わる」が「男を騙すのを止める」とイコールであるなら、合点がいく。ホントの性格は、「男を騙すのを止める」時に、出てくるというわけだ。・・・ということは、騙され続けないと幸せになんかなれない。騙され続けるのにも能力が必要である。女性のホントの性格を知らないで済むというのは、男の能力である。ある日の真実が永遠の真実ではないと察しながら、最期の時を迎えるまで、ひと夏の恋も知らないままに天寿をまっとうするのか・・・。人生のラストスパート。しんぞうさんのペースが乱れて来た。

「愛」は真ん中に心があるので真心。
「恋」は下に心があるので下心。
「恋」は一人でもできるもの。
「愛」は二人でないとできないもの。
「恋」は落ちるもの。
「愛」は育むもの。

しんぞうさんは、「愛」しか経験したことがないことになる。「私は、喜寿だが。君は、真珠かな」なんて、軽口の叩けない「恋」をはじめてみたくなっている。好きな人に好きと言ってシロクロ決着をつけたら、それは、どんな思い出も結果をともなうことになる。結論とともに淡い恋は、終わることも知らなかった。喜寿になっても「恋」がわからない。初恋すら済ませたのかどうか!?がわからない。淡々と生きてきた。〈不整脈〉も一興だ。

「しんぞうさん、ちょっと〈ペースメーカー〉の設定を変えますね」
「えっ!?先生・・・。ちょっとなんかフラフラするよ・・・」

ちょっと気になっていた婦長さんの笑顔が輝いて見える。バツイチだって言ってたな。そう云えば、この女性だけには、「余命半年になったら抱かせてくれ」って言えてない。

「しんぞうさん、しんぞうさん」
「婦長さん、なんかドキドキして来たよ」

なんとなく好きな人に、好きと言ってはじまる恋があることも知らなかった。

(おわり)

□心臓の働き

 心臓は血液やリンパ液を全身に循環させるポンプです。一定のペースで休むことなく動くため、ほとんどが筋肉でできています。心臓につながる静脈から、汚れた血液を回収し、肺でキレイにして再び全身に送ります。

加齢や体質でペースが乱れるのが不整脈です。めまい、ふらつき、場合によっては命を脅かすことも。この場合、ペースメーカーを心臓に入れ、電気刺激でペースを一定に保ちます。ペースメーカーに異常があってはならないため3ヶ月に一度程度、病院で定期検診をします。心臓は命の最後の砦と言える大切な臓器なのです